大人向けの絵本 うろんな客
私の大好きな絵本であります。絵本好きの人ならきっと知っているはず。有名な作品ですね。
子どもはこの絵本を見ても「意味不明!よくわかんねぇよ!」的な顔をすると思います。
また、大人の中でも一般ウケするような気はしません。が、一部の人の心には強く残るのではないでしょうか?この世界観にはまってしまう人もけっこういるんでしょう。
著作権問題をクリアしているのかどうか知りませんが、画像も動画もネット上にいっぱいありますし…。でも、ネットではなく紙の書籍で楽しんでほしい逸品です!
「うろんな客」とは…
「うろんな(胡乱な)」という形容動詞の意味は「正体の怪しくいかがわしいこと。また、そのさま。」だそうです。「怪しい、胡散臭い、いかがわしい、得体のしれない」…あたりが類似の表現と言えるでしょうか。
「The Doubtful Guest」という原書のタイトルに「うろんな客」という邦題が付けられていて、ますます怪しげな雰囲気を醸し出しています。
舞台は西洋の古めかしいお屋敷です。どこかの書評では「ビクトリア朝」と表現されていたような気もいたします。
静かに平和に暮らしていたであろう裕福そうな家族のもとに、突如あらわれたカギ鼻頭の奇妙な生き物。
その生き物の珍奇な姿にぎょっとする家族。奇怪な行動に悩まされつつも、それを追い出すこともなく…。そして淡々と続く日々の暮らし…。
家族の驚きや苛立ちなど感情の高まりが極めて控えめに描かれた絵。しかし戸惑いや疲労感が苦しいほどに伝わってきます。
暗く静かな描写なのに、コミカル過ぎて笑いを誘います。
また、原作の英文の雰囲気を損なうことなく…というか原作を超えているんじゃないかというほど素晴らしい日本語訳。
五・七調にまとめられているリズムの良い言葉を読むと、吹き出してしまいます。短歌のような日本語訳は文語的表現や体言止めが用いられて、絵の重厚感にマッチしています。
絵も言葉も古めかしく陰鬱なのに、全体として軽妙で洒落た仕上がりというこのギャップ!どうなっているんでしょう?
原作者のエドワード・ゴーリーさんのセンスの良さに脱帽。そして、柴田元幸さんの日本語訳の秀逸さに感嘆!
笑いのツボが同じ人にはたまらないと思います。
うちに現れた「うろんな客」も不気味で奇怪で、憎めないコミカルなことたくさんありましたよ、ほんと。
人生にはこういうことってよくあるんでしょうかね。
「うろんな○○」みたいなものが自分のもとに現れたとき、はじめのうちは驚いたり苛立ったりするものの、いつの間にか諦めるのか慣れるのか…受容しているという感じ…。
私はなんだか安部公房さんの「砂の女」を思い出してしまいます…。